時計修理調整関連測定項目と用語の解説

  ここでは時計修理や調整に必要な測定項目の簡単な解説を致します。○○とは。

機械式、水晶式共通項目

歩度

 時計には必ず進み遅れの誤差が生じますが、測定器が無いときに日差を調べるには一日待たなければいけません。
 仕事で時計を修理・調整するときにはこのように時間をかけることは出来ませんから、短時間に日差を求める必要があります。
 歩度とはこの短時間の誤差から推定した日差・月差・年差等の進み遅れの誤差をさします。
 歩度測定器は例えば10秒間の時計の誤差を測定し、これを8640倍して日差として表示します。

ゲートタイム(測定時間)

 歩度測定の時に測定する時間のことをさします。
 機械式時計:必ず偶数回振動する時間で測る必要があります。奇数回では片振りの影響で誤差が増えます。世の中にある時計の殆どは2秒の倍数の時間を設定すれば良いですが、5.5振動(19800)等もありますので4秒の倍数で測るのが一般的です。
 水晶式時計:多くは10秒で測れますが、例外も多いです。基本的にメーカー指定の時間に合わせる必要があります。スイス製では480秒という時計もあります。
 10秒では測れないタイプとしては論理緩急と言って、源発振周波数(多くは32768Hz)を調整せずに、分周(周波数を下げること)するときに進み遅れの調整をする時計に多いです。

帯磁量

 時計を身の回りの磁石に近づけてしまい、磁気を帯びることがあります。金属が永久磁石になってしまうわけですが、この磁気の量を示します。特に機械式時計で問題になります。
 どの程度から問題になるかが良く問われるのですが、取りあえず1mT(10ガウス)としているメーカーもあるようです。しかし同じ時計の帯磁量でも測定器により値が異なってきますので一概に決めることは難しいです。理由は磁束密度計測に詳述してあります。
 因みに帯磁した磁気を抜く道具として時計材料店で脱磁器が販売されています。(弊社では取り扱っていません)



機械式時計項目

振り角

 天輪の振れる角度をさします。片振幅の角度で、時計によっても差はありますが、最高に振れるものは340度程度、ゼンマイが切れて止まる直前で100度程度。天輪とヒゲは時計の等時性を決める機械的な共振装置ですが、大きく振れることが共振装置としての性能が高まり、進み遅れの誤差が小さくなることになります。

片振り

 テンプの振動の中心が本来のあるべき位置からずれる程度をいいます。時計業界では伝統的に(チック〜タック)−(タック〜チック)の絶対値をms単位で表わした時間を使います。これはタイムグラファーで片振りが生じたときに現れる線間隔が時間に相当する為と考えられます。
しかしms単位では同じ時計であってもその時々の振り角に反比例して数値が変わってしまうために、WT-2000では測定した振り角を掛け合わせて角度を単位として表示しています。

タイムグラフ

 機械式時計の歩度や片振りを視覚的に捉えることの出来る伝統的な測定器です。詳しくは製品概要の下の方にあるタイムグラフの読み方をご覧下さい。

拘束角(リフトアングル)

 以下のように定義している本があると聞いています。
「レバー式脱進機において「パレットストーン」(入りヅメ、出ヅメ)と「ガンギ車」の歯とがそれぞれ当たり合う「当たり面」の角度(または形状および配置)のこと。」これによって「入りヅメ・出ヅメ」および「ガンギ車の歯」のそれぞれが交差する軌跡の中の一定の正しい角度でテンワへの入力(衝撃)が行われることが保証される。
英語ではLift angle です。計測に関しては、A音とC音が発生する間に(マニュアルの図参照)てんわの振れる角度と理解しています。振り角、片振り角の計測はこのA音とC音の間の時間を測定して利用しています。


水晶式時計項目

始動開始電圧

 時計が動き始める電圧で、この電圧が低いほど良い。電子回路とモータ等のメカを含めた一種の時計の健康状態を示す指標と言えます。

コイル抵抗

 ステップモータのコイルの抵抗で、殆どの腕時計は正常であれば1〜6kΩの範囲に入ります。

消費電流

 文字通り消費電流で電流を測れば良いのですが、時計の平均消費電流は1μA程度と少なく、モータの動きに連動して脈動しているので時計専用の電流計でないと測るのが困難です。
 時計用の測定器は1秒かそれ以上の期間の電流を平均化する機能を備えており、電流の測定下限値も一般のデジタルテスタよりも小さくなっていて、測りやすくなっています。