生波形を観測することの意義
 私が時計に関して技術指導をいただいている富山氏は、クオーツ時計が出始めのころ、電流波形を観察して故障原因との関連を調べていたそうです。数多くの波形を見ているうちに(故障の種類にもよるでしょうが)波形を見ればどこに問題があるか分かるようになったそうです。オシロスコープのブラウン管に映る波形を鉛筆で書き写した30年ぐらい前のノートを見せていただいたことがあります。
 また、私も同席した場で氏は居合わせた人のメカ時計も刻音を聞いただけで「○○にグリスが付きすぎている」と言って中を開けると、本当にその通りになっていたことがありました。耳で聞いて分かることは必ず音の波形にも現れているはずですので、研究を重ねれば波形からグリスの付き具合も分かるようになるでしょう。

 物理現象を解析するためには、なるべく加工される前の生の情報を沢山集めるのが基本ですが、タイムグラフや歩度、振り角などの数字は加工されたデータです。通常の修理や調整をする分にはそれで充分でしょうが、時計のことをより深く知ろうと考えたときに、生波形はきっと多くのことを語ってくれると確信しています。

 Witschi社の機械時計用の測定器は、日本ではWATCH EXPERTしか知られていませんが、上位機種には生波形観察が出来るものがあります。WT-2000+PC+Audacityでは、ソフトの優秀さと、PCの大容量のメモリのおかげでW社の上位機種よりも更に詳細な解析も可能になります。

生波形による解析の具体例
手許にあったCASIO F-28W というデジタル時計は10秒ゲートでは安定した歩度測定結果が得られませんでした。そこで生波形を観測したところ、歩度測定の信号としている液晶電界パルスの周期が128/3Hzになっていることが分かりました。10倍しても整数にはなりませんからうまく測定できないのは道理です。液晶の数字は秒の桁は10秒周期でも変わりますので、その3倍である30秒のゲートタイムで測定したところ、安定した結果が得られるようになりました。

アナログクオーツでは、例えば論理緩急の内容を知ることも出来ます。一般的なパソコンのサンプリング周波数は44.1kHzですから、通常のクオーツの源振32kはそれよりも低いので、時計が中でどんな補正計算をしているかをうかがい知ることが出来ます。

 機械式時計については、例えば波形から(計算方法を知っていれば)一振動毎の振り角を求めることが出来ます。片振りも生波形から求められます。チックとタックで波形がかなり違うことに気付くこともあります。また、周期的な刻音波形の変化からガンギの不具合を見つけたりすることも出来るはずです。
 また、Audacityには周波数分析の機能がありますから、音質の違いを調べることが出来ます。上に書きましたグリスの付き具合などによる刻音の違いも検出できると思います。



 生波形を利用して良い結果が得られましたらお知らせ下さればここで紹介させていただきたく思います。
 あるいはお持ちのサイトにアップされたらリンクさせていただきたいと思います。